
日本神話というと天照大御神をはじめとした
天皇の起源神話が有名ですね。
一般の人間についての起源は語られているのでしょうか?



・日本神話における人間の誕生の語られ方
・他国の神話との比較
ぜひ最後までお読みください✨
日本神話で人間の誕生/最初の人間はどう語られているの?
日本神話をよく読むと、
人間の誕生がしっかりと語られています。



イザナギとイザナミは最初の人間か?
日本神話のイザナギとイザナミ、
旧約聖書のアダムとイブは、
どちらも創世段階での男女ということで
比較されることが多いです。
確かにアダムとイブは、
旧約聖書に記された最初の人間です。
しかし、イザナギとイザナミは、
最初の人間とは書かれておらず、
あくまで神として語られています。


Wikiメディアコモンズより引用(パブリックドメイン)
イザナギとイザナミが交合して生まれたのは、
日本の国土や様々な神です。(国生み・神生み)






日本神話で人間を指す言葉<青人草>
不思議なことに日本神話では
いつの間にか人間がは誕生しています。
黄泉の国訪問の神話において、
イザナギは次のようなセリフを語っています。
【書き下し文】
『古事記』より引用
ここに伊邪那岐命、その桃子に告りたまはく、「汝、吾を助けしが如く、葦原中国にあらゆるうつくしき青人草の、苦しき瀬に落ちて患へ悩む時に助くべし」と告りたまひて、名を賜ひて意富加牟豆美命と号ひき。
【現代語訳】
そこでイザナキノ命がその桃の実におっしゃるには、「おまえが私を助けたように、葦原の中国に生きているすべての現世の人々が、つらい目にあって苦しみ悩んでいる時に助けてくれ」とおっしゃって、桃の実にオホカムヅミノ命という神名を与えた。
ここでいう「青人草」というのが、人間のことです。
『古事記』でも『日本書紀』でも
いつのまにか大勢の青人草(人間)が存在しているのです。
青人草 = ウマシアシカビヒコジ
それでは、
青人草(人間)はいつ生まれたのかというと、
天地開闢の冒頭部分において
ウマシアシカビヒコジという神
として誕生したと言われています。
『古事記』の該当部分を引用してみましょう。
【書き下し文】
『古事記』より引用
次に国稚く浮ける脂の如くして、海月なす漂へる時、葦牙の如く萌え騰る物によりて成りし神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅神、次に天之常立神。
【現代語訳】
次に国土がまだ若くて固まらず、水に浮いている脂のような状態で、くらげのように漂っている時に、葦の芽が泥沼から萌え出るように、生命力が神となったのがウマシアシカビヒコヂノ神であり、次にアメノトコタチノ神である。
『日本書紀』においては、別伝(一書)において
次のような記載がされています。
【原文】
一書曰、天地混成之時、始有神人焉、號可美葦牙彥舅尊。
【現代語訳】
また一書ではこういっている。天地がぐるぐる回転して、形がまだ定まっていない時に、はじめて神のような人があった。ウマシアシカビヒコジノミコトという。
ウマシアシカビヒコジを「神人(神のような人)」だと語っています。



国土の未熟な状態を、水面に浮かぶくらげや
水辺の葦の芽などを比喩に用いて語ったのは
難波あたりの水辺生活の体験にもとづいて語られたものなのでしょう。
一日に15センチも伸びるという
葦の生命力、成長力を
古代人は驚きの目をもって眺め、
生命の起源を葦の芽にとらえたのです。
ウマシアシカビヒコジは、生命力の神格化であり、
人間の誕生そのものを指す神様ということになります。
だからこそ、黄泉の国神話の中で、
人間は葦を連想させる「青人草」という名前で呼ばれているのです。
日本神話では、
ウマシアシカビヒコジが
最初の人間として描かれている。
人間の誕生について他国の神話と比較してみよう!
では、他の国の創世神話では
人間の誕生はどう語られているのでしょうか。
旧約聖書における人間の誕生
旧約聖書『創世記』によると、
アダムとイブが最初の人間であるとされています。
神が最初に作った人間がアダム(男)でした。
神は、アダムのあばら骨を1本抜いて
その骨からイブ(女)を作ったのです。
ギリシャ神話
ギリシア神話ではプロメテウスという男神が、
粘土をもちいて神をかたどった人形を作り、
それを気に入った最高神ゼウスが息を吹き込み、
最初の人間が誕生しています。
北欧神話
北欧神話では、
3柱の神(オーディンとヴィリとヴェー)
が浜辺で2本の流木(トネリコとニレ)を拾い、
人間の形を与えました。
オーディンはそれに命を与え、ヴィリは感情と知性を
ヴェーは言葉と感覚を与え、最初の人間が誕生したのです。
トネリコから作られた人間は男性で、名前はアスク、
ニレから作られたのは女性で、名前はエムブラといいます。
中国神話
古代中国神話に登場する女神・女媧は、
黄土をこねて人形を作り、人間の誕生となりました。


Wikiメディアコモンズより引用(パブリックドメイン)



日本神話との違い
これまで見てきたように他国の神話では、
「神が人間を作った」とされています。
ところが、日本神話では、
最初の人間・ウマシアシカビヒコジは
他者に作られたものではなく、
自然発生的に生成したものなのです。
最初の人間が作られたものではなく、
自然に生まれたものというのは、
日本神話独特の発想と言えるでしょう。
「ナル型言語」と「スル型言語」
日本神話における
最初の人間が自然発生的に生まれたという発想は、
日本語が「ナル型言語」であることと
関係があるかも知れません。



英語は主語を必ず明記して表現する「スル型言語」
なのに対し、日本語は必ずしも主語を必要としない
「ナル型言語」なのです。



日本語)お腹が痛い。
英語)I have a stomachache.
<私は腹痛を持っている>
日本語)この度縁あって結婚することになりました。
英語)This time, we decided to get married.
<この度、私たちは結婚することを決断した>
日本語は、自然にこうなった
という発想が好きな言語です。
それに対して英語は、主体がこうした
と考える言語なのです。
この発想の違いが、
創世神話にも表れているのかも知れません。
日本神話では最初の人間が自然発生しているのに対し、
ギリシャ神話や聖書では神が人間を作っているのです。